概念の奥にあるもの(H・P・ラヴクラフト「ナイアルラトホテップ」)

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    久しぶりに作品の感想の記事です。

    今回はラヴクラフトの短編「ナイアルラトホテップ」の紹介です。

    短編と言いましたが、この作品は本当に短くて、日本語訳の文庫で6ページのものです。

    ラヴクラフトがある日、夢見た後に一気に書き上げたものがこの作品だそうで、ほんのわずかの物語でありながら、事柄が圧縮して伝えられているという印象です。

    物語の内容は、ある時あらわれたナイアルラトホテップという者が中心となっています。

    明らかにこの者は通常の人物とは違うようなのです。
    (現在この名前は様々なところから知られていて、何者なのか多く方がご存知かもしれませんが)

    この作品では次のようなシーンがあります。

     あれは暑い秋のことだったが、わたしは眠れない群衆とともに、夜の街を歩いてナイアルラトホテップに会いにいき、息づまる夜を衝いて果しない階段を登り、むせかえる部屋に入った。そしてスクリーンに映じられる、廃墟の只中にいる頭巾をかぶった人影と、崩れた記念碑の背後からのぞきこむ邪悪な黄色い顔を見た。さらに世界が黯黒を相手に闘っているのを見た。窮極の宇宙から押し寄せる破壊の波を相手に、光を失い冷えていく太陽のまわりで、旋回し、回転し、もがきつづける世界の姿を、するうち驚くべきことに、観客の頭のまわりで火花が踊り、観客の髪の毛が逆立つ一方、いいようもなくグロテスクな影があらわれ、観客の頭にのしかかった。

    ……すごいマジックです。

    いや、内容を見るにマジック以上のことが起きているのですが、初めて読んだ時から私は「これこそがマジックだ」と思わされたのです。
    これこそ再現に値するものだというか……。

    とにかくナイアルラトホテップというのはこういうことをなせる者なのですね。

    この後、この出来事が観客に与えた影響、行く末が描かれているのですが、その描写が徐々に抽象的になっていくのです。
    結果的には、この観客に何が起こったかははっきりわかりません。

    この抽象的で、不明であることが、ラヴクラフトの魅力なのではと思っています。
    そしてこのことは、ラヴクラフトに影響を与えた作家アーサー・マッケンにも通じるところでもあります。


    これらの作家の作品に触れる際、私がいつも思うことがあります。

    人間が物質的なものや身体的なものと通じて触れている際に、背景のようにして存在している概念があります。

    例えば、手元にあるナイフには「危険」や「役に立つ」といった概念があり、人と触れ合う際の温かさには「優しさ」や「愛情」といった概念があるでしょう。

    これらの概念がもし身をおいている場というものがあるとすれば、それは綺麗な秩序を持った場ではなく、混沌としており、さらにその奥には無意味のような虚のようなものが開いているのではないでしょうか。
    (そういった虚のようなものについてはこちらで文章にしたことがあります)

    もしかしたら変わった夢想かもしれません、しかし、ラヴクラフトのような作家が私をそういった考えに連れて行くようなところがあるのです。

    変な言い方ですが、この点で私はこういった作家に共感してしまうのです。

    ラヴクラフトが述べた「宇宙的恐怖」というものは、もともと私が漠然と夢想していた混沌や虚のようなものを連想させます。
    (そういえば、シャーロック・ホームズの物語で「宇宙的恐怖」を思わせるものがありました。その作品の感想はこちらです)


    この「ナイアルラトホテップ」は、特に抽象的なことをそのまま読者に投げつけてくるようなところがあります。

    その奇妙さや切り詰められた硬い文章の荒々しさが、もうほとんど理解不能な内容を提示しながらも、かえって魅力となっていて、心地よさまでも覚えてしまいます。

    特に日本語訳(創元推理文庫の大瀧啓裕訳)では最終段落となっている箇所、少し長めなので引用しませんがこの箇所は結果として何を言っているのか私にはわかりません。

    ある意味でオチとなる文章なのですが、是非この部分には皆様も迷い込んでいただきたいです。

    なんというか、「ナイアルラトホテップ」というのは、概念の奥にあるものを概念にしたもの、かもしれませんね。


    ラヴクラフト全集〈5〉 (創元推理文庫)ラヴクラフト全集〈5〉 (創元推理文庫)
    (1987/07/10)
    H.P. ラヴクラフト

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