幻戯(中井英夫『とらんぷ譚』)

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    私自身の輪郭、そして魔術の輪郭を作り上げているものも紹介していきます。

    マジックと聞くとトランプを思い浮かべる方も多いと思いますが、それに関連して今回は幻想作家である中井英夫の『とらんぷ譚』をとりあげます。

    この小説は面白い構成をとっていて、連作短編が4つと独立した2編の短編からなっています。
    4つの連作短編はそれぞれ13編の短編からなっており、全てを合計すると54編の短編が収められていることになります。

    この構成はまさにトランプの構成、つまりスペード、クラブ、ハート、ダイヤがそれぞれ13枚ずつ、それにジョーカー2枚を合わせて54枚、と全く同じになっています。

    それぞれの話は文庫で10ページほどでとても短いのですが、どれも幻想的で魅惑的、そして何より悪夢のような趣きをもっています。


    この『とらんぷ譚』のジョーカーにあたる短編に「幻戯」というものがあります。
    奇術師のモノローグによって語られるこの物語は悲哀に満ちていてとても儚いものです。

    「魔術の女王」と呼ばれ引退した奇術師、そして死んでしまった相棒の妻、そういった過去に対する憧れを含んだ悲しみが、同時に幻に憧れ浸ろうとする思いと重なっていき、現実を覆っていく。

    この奇術師のかたる物語は、それ自体が作者が読者に対して仕掛けた奇術となっています。
    幻を追い求める物語を読む私たちに幻を感じさせるような奇術の物語、と言えばいいでしょうか。

    この奇術を見せられた私自身、おそらくマジシャンとして、作中で「幻戯」と呼ばれるものに対して憧れをもってしまっているのです。

    手品とも奇術とももうこれからは呼ぶまい。幻戯。それでいい。メスカリンにもLSDにも依らない白昼の色彩幻覚をもし地上に造り出したいというなら、いま一度この贋の王国に憧れ、夢み、それを切望しさえすればいいのだと私には思えるのだが(後略)


    ※今回紹介した「幻戯」は、『中井英夫全集(3) とらんぷ譚』(創元ライブラリ)、『新装版 とらんぷ譚4 真珠母の匣』(講談社文庫)で読むことができます。


    中井英夫全集 (3) とらんぷ譚中井英夫全集 (3) とらんぷ譚
    (1996/05/31)
    中井 英夫

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    新装版 とらんぷ譚4 真珠母の匣 (講談社文庫)新装版 とらんぷ譚4 真珠母の匣 (講談社文庫)
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    中井 英夫

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    Category: 作品感想

    COMMENT

    わたしもそちらの小説持ってます!
    まだ、薔薇に寄生される話までしか読んでいませんが・・・。

    81 #- | 2013.06.23(Sun) 15:17 | URL | EDIT

    >81さん
    本当ですか!
    特に最後のジョーカーにあたる2編は独立した短編なので、是非読んでみてください。
    もう一つのジョーカー「影の狩人」も素敵な作品ですよ。

    彩 #- | 2013.06.23(Sun) 16:26 | URL | EDIT

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