魔術と宇宙論(澁澤龍彦『黒魔術の手帖』)

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    昨日8/5は澁澤龍彦の命日でした。

    とはいっても、そのことを知ったのは前日だったのですが……。

    この機会に昔読んだエッセイをいくつか読み返してみました。

    結果的には青臭かった頃の自分の気持ちを思い返すために、文字を追ったような感じとなってしまったのですが。

    澁澤龍彦の作品に出会ったのは中学生もしくは高校生の時でした。

    澁澤龍彦を経由することで、シュルレアリスムやジョルジュ・バタイユなどに出会い、そのことが今に至るまでの私の方向を導く一因となったことは間違いありません。


    今回取り上げる『黒魔術の手帖』はどういう気まぐれで購入したのか、もう全く記憶がありません。

    それでも今回読み返してみると、まだまだ純粋に手品への興味が一番だったあの頃の私が、既に自らの中にある魔術的なものへの興味を予告していたかのようで、とても不思議な気持ちになりました。

    この作品は魔術の周辺に関するエッセイ集なのですが、数日読み返していたものをほんの少しだけ紹介しますね。


    「古代カルタの謎」というエッセイでは、おそらくまだ日本ではメジャーな存在ではなかったタロットが紹介されています。

    呼び名も「タロック」となぜかドイツ語での紹介となっており、具体的なカードの意味やスプレッドについては最後の数ページのみとなっているため、このぐらいの紹介が当時の日本ではせいぜいだったのか、と感じさせられます。

    このエッセイは突っ込んだ説明よりも、そういった状況の中で切り込もうという姿勢がとても興味深かったです。


    「黒ミサ玄義」というエッセイにおいて描写されている十九世紀の黒ミサの様子は、なぜか悪意のもつ無邪気さが前面に押し出されているようで、最初に読んだときに微笑ましさのようなものを感じてしまったことを覚えています。

    その様子は罵声や侮蔑の言葉が飛び交い汚らしさが溢れているのに、そのことが子どもじみた無邪気さと通じるように感じるのです。

    それは周りの大人が子どもに対して、ときおり感じる危険さと通じるものだと思います。

    そういった子供じみた姿は、原始的で道徳以前に立ち返ろうとする姿までも思い起こさせます。


    そして「カバラ的宇宙」というエッセイ。

    これは最初に読んだときも、そして今もやはり一番興味深いものでした。

    このエッセイではカバラについて、澁澤龍彦らしい説明がなされるのですが、そこで特に詳しく説明されているのは、宇宙の歴史を占星術的な黄道十二宮を辿ることによって明らかするカバラの宇宙論です。

    前半では地球が現在の形になるまでが惑星の象徴を辿ることで説明されます。

    例えば、黄金時代で太陽のように輝いていた地球が、いくつかの時代を経て、鉄の時代になると、地球が冷えてしまい輝きまで失ってしまう。そして月まで誕生する。

    この地球と月の分離の様は双子宮によってあらわされている、などというように。

    地球が現在のような形になってからは人類の変化の様子が示される後半に移ります。

    性別以前の段階から始まって、いくつかの段階の末に現在の性別を持つ段階まで来ることが、黄道十二宮の記号の形から語られています。

    そして、それだけではなくついには未来の人類の姿までもが描き出されているのです。

    そこでは男女の性別が統一され、最終的に人間は天使のような存在になるという予言がされていて、その上で、他の惑星へと飛び立つという壮大な展開を見せるところでカバラ的な宇宙論と人間論は幕を閉じるのです。


    澁澤龍彦はこのエッセイのほとんど最後のところでこう書いています。

    近頃、安手なサイエンス・フィクションが大いに流行しているけれど、人間が他の天体に飛び立つという発想も、そこに何か科学的・合理主義的空想の必然性を超えた、より深い人類史的・哲学的空想の裏づけがあった場合、よほど興味ぶかい文学作品になるのではないかと思われるのだが、いかがなものであろう。

    この問いかけは非常に喚起されるものでした。

    SFに限らず、あらゆる作品や表現の突飛で魅力的になりうる部分に深みを与えるのは、一体どういったものだろうか、と。


    そして、このエッセイの最後の部分でもある次の引用はある種、皆様への提案ともなるものだと思います。

    ポオのひそみにならって、ミステリ作家が、必らず自分の宇宙論を書くような制度をもうけたら面白いと思う。古風なカバラの宇宙論を紹介したついでに、蛇足として、こんな感想を付け加えておく。

    私は今回この箇所を読み返したときに、ミステリ作家のみならず、表現者が自分の宇宙論を必ず自らの表現であらわすような制度をもうけたら、本当に面白いと思ったのですが、いかがでしょうか。

    上の宇宙論と並ぶようなものを見たいと思いませんか。
    そういったものをあらわしてみたいと思いませんか。


    黒魔術の手帖 (河出文庫 し 1-5 澁澤龍彦コレクション)黒魔術の手帖 (河出文庫 し 1-5 澁澤龍彦コレクション)
    (1983/12)
    澁澤 龍彦

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