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魔術師から見た日常と非日常の記録
主人公は車上生活をしている男、名越。
名越はある日、医学生である伊藤から、70万の報酬の代わりに頭蓋骨に穴を開ける「トレパネーション」という手術を受けます。
伊藤の目的はそのトレパネーションによって第六感が芽生えるかどうかを確かめることでした。
初めは何も変化を感じなかった名越ですが、とあるきっかけにより右目を閉じることで街の人が異形の姿をとって見えるようになってしまったことに気付きます。
例えば、あるヤクザの組長は全身にロボットを身にまとって自らの小指を刃物で傷つけようとする少年の姿に見えます。
他にも、正面からは普通の太った男性なのに横から見ると厚みのないペラペラの姿に見えてしまったり、女性が木の姿に見えてしまったり、とにかく普通の見え方ではないのです。
(こういった異形の姿は作中では「ホムンクルス」と呼ばれます)
このホムンクルスの異形の姿はその人自身のトラウマに関係するものを表していて、さらにその人のトラウマは名越のトラウマとも何らかの関連があるということもわかります。
名越はホムンクルスと対面することで、その相手と自らのトラウマに正面から向き合うこととなります。
そして名越が車上生活をしている謎などをめぐって物語は展開していきます。
以上のようなストーリーなのですが、この主人公が身につけた能力がとても興味深いです。
この能力は、あたかもメンタリズムを非常に視覚的に表現したようなものなのです。
私自身、パフォーマンスの後によくマインドリーディング(読心術)などは「どうやっているのか」とか「どのように"見えて"いるのか」とか聞かれることがあるのですが、そういった疑問をもった方にこの作品は是非読んでいただきたいです。
主人公が相手のトラウマや過去を読み解き、言い当て、解決していく様を見ていると、これこそ究極のメンタリストではないかと思わされます。
(この作品では心を読むだけでなく、相手の心理に介入する描写もたくさんあって、その辺りもメンタリズムを描いているように思われてきます)
実際、世間でも知れ渡っているメンタリズムとの関連するところとして、名越が身につけた能力というのは、人が普段相手の仕草から無意識的に察知しているものがはっきりとした形として見えるようになった、という一応の説明が序盤にされます。
この仕草について作品が注目していることは、ホムンクルスという異形の形以外に、作中の登場人物の細かな仕草が描写されていることからもよくわかります。
私たちがその登場人物の仕草から錯綜する思いや真実を探っていくというのもこの作品の楽しみ方だと思います。
そういった面に興味のある方は是非読んでみてください。
ただサイコサスペンスと書いた通り、ストーリーには過激で精神的に来るところも多々あるのですが……。
この作品の全体を貫くテーマは「人を見ること」でしょう。
普段私たちが意識と無意識の両方から誰かを見ようとしていることがどういうことなのか、とても強烈な形で描くことで鮮明にしているようです。
さらに今回は書かなかったこととして、人の心や過去などを見ることに関してストーリー展開上、非常に示唆的なところもあります。
この作品に私が最初に興味をもったのは心が見えるようになった部分ですが、その示唆的な部分を知ってからさらに危険で魅力的な作品だと感じるようになりました。
そういったところも含めて、この作品についてはまた別の機会に深い考察を行なってみたいと思っています。
人間の眼というのは
目の前の世界を映すためだけのものではありません。
目の前の世界に、
自分を映し出すものでもあります。
あなたが、
ホムンクルスを見ている以上に
ホムンクルスが、
あなたを見ているんです。
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